バイクウェアに必要な機能は様々あります。防護性、運動性、防風性、防水性、透湿性などなど……
その中で今回はバイクウェアにおける防水性(耐水性)について調べていきたいと思います。
防水(耐水)について
レインウェアなどの防水性(耐水性)は、基本的に耐水圧(mm)の数値で表されます。
耐水圧とは、耐水性能(防水性能)を数値化して表したものです。
JIS規格では、1 cm四方の柱を生地の上にのせて、その中に水を入れて生地に水圧を加え、水滴が3滴、裏生地に染み出した時点での高さを測定し、その高さを耐水圧(mm)としています。
簡単に言ってしまえば耐水圧10,000 mmであれば、1 cm四方の柱の高さ10,000 mm(10 m)の水が生地の上にのせられても浸み出さないということです。
以下がその図です。
天候による一般的な水圧の目安は以下の数値です。
■300 mm・・・ 小雨
■1000 mm・・・ 通常程度の雨
■2,000 mm・・・ 中程度の雨
■10,000 mm・・・ 大雨
■20,000 mm・・・ 嵐
この数値を見ると、普通の雨程度なら2,000 mm程度の耐水圧があれば、問題ないということになりますね。市販されているレインウェアの耐水圧も最も低いものは2,000 mm程度です。
ちなみに傘の耐水圧が約200~500 mm程度です。なんだ、それなら全然低くても大丈夫じゃんってなりますが、その辺で市販されている傘に長時間水圧をかけると水が浸み出してきます。一時的に使用するだけなのでこの程度の耐水圧でも問題ないのです。
なぜバイクウェアには高耐水圧性が必要なのか
雨の中のライディングというのは台風の中を走るようなもの
天候による水圧の数値を見ると、大雨や嵐はともかくとして、 普通の雨の中をバイクで走行するのであれば、バイクウェアの耐水性も2,000 mm程度あれば問題ないのではないのかと思う方もいらっしゃると思います。
しかし雨の中のライディングという状況は、実はレインウェアにとってはかなり厳しいシチュエーションの一つで、街中を歩いている時の雨や登山時の雨という状況とは比較になりません。それはなぜかというと、バイクは高速で移動しており、体に当たる風も強力で、雨水とも高速でぶつかるからです。
例えば、立っているときに風を感じない風速0 mの日でも、時速100 Kmで走行した場合、体には風速27.7 mの風を受けることになります。
風速27.7 mの風は、全強風(ぜんきょうふう) / 暴風(ぼうふうに分類され、内陸部では稀だそうで、根こそぎ倒される木が出始め、人家に大きな被害が起こるそうです。
但し、これはあくまで地上10 mにおける風速を地上の煙や木の揺れなどと関連付けたものなので、地表付近の風速とは少し異なるそうですがね。
とはいうものの、バイクで走行時にはこれほどの強風にさらされているのは間違いのないことで、特に強くもない一般的な台風の風速が17.2 m/s~28.5 m/s程度なので、バイクで高速走行する場合は、通常の雨の中でも、台風の中を走っている事と同義ということがわかりますね。
それを鑑みると、バイクウェアにおける防水性(耐水性)というのは、歩行用や登山用などとは比較にならないレベルの高機能性が要求されるわけです。
通常の水圧以外にも発生する圧力がある
さらに、雨の強さに変化がない場合でも、使用条件によってより耐水圧が必要になる場合があります。それは、
局所的に大きな圧力やテンションがかかり、生地がのびる
場合です。これはバイクに乗っている場合には常に発生する問題です。
上の図を見てたただくとわかりますが、バイクの乗車姿勢は、尻部に大きな圧力が、膝や肘や肩が突っ張ることでテンションが、それぞれの箇所にかかります。
最初に示した耐水圧の測定方法を見ると、水の重量だけの圧力で測定していることがわかります。これとは別の圧力がさらに加われば、より強い圧力で水が生地に押し当てられることになるので、さらに耐水圧が必要となるわけです。
●水圧以外で生地に発生する圧力の例
・濡れた場所に体重80 Kg の人間が座った場合 2,000 mm
・濡れた場所に膝をついた場合 11,000 mm(この数値は膝をついてそこに体重が掛かっている場合の数値です。膝を曲げているだけのライディング姿勢では 多く見積もっても1,000~2,000 mm程度だと思われます)
どういうことかと言いますと、中程度の雨(水圧2,000 mm)中、例えば濡れたベンチなどに腰かけた場合、通常の水圧とは別に、2,000 mmの圧力が生地に発生するわけです。つまり、中程度の雨の中、濡れたベンチに座る場合は、耐水圧が4,000 mm必要になるというわけです。
バイク走行時に実際に必要な耐水圧
ではバイク走行時に実際に必要な耐水圧の数値はどのくらいなのでしょうか。
簡単な計算を用いて説明したいと思います。
ここでは通常の雨の中、高速道路を時速80 Kmで走行していると仮定します。
●普通の雨の水圧は1000 mm。必要な耐水圧は1000 mmです。(もちろんこれは歩行しているような状態時に必要な数値です)
●普通の雨の雨粒は2 mm程度で、その落下速度は時速20 Km程度と言われています。
つまり耐水圧1000 mmというのは、時速20 Km程度で生地に雨粒が当たる状態の中で、水の侵入を防ぐことが可能な数値ということになりますね。
では上記の仮定をもとにバイクに乗って時速80 Kmで走行した場合はどうなるのでしょう。
この雨の中を時速80 Kmで走行した場合、雨粒が時速80 Km以上でぶつかってくるのと同じとなります。
運動エネルギーは速度の二乗なので、単純に計算するだけでも、普通の雨の中バイクで走行している場合は歩行時の16倍以上の威力で雨粒が生地に当たることになります。
つまり、普通程度の雨の中時速80 Kmで走行する場合、1,000×16=16,000で最低でも耐水圧16,000 mm必要となると思われます。
さらにこれに加え、尻部や膝、肘、肩部にはさらに圧力がかかるので、18,000~20,000 mmは必要になるのではないかと思われます。
つまり耐水圧10,000 mm程度のバイクウェアやレインウェアでは、まるで高速走行に対応できないということですね。
では速度別に必要な耐水圧をまとめましたので、ご参考にどうぞ。
■普通の雨(水圧1000 mm程度)の中で必要な速度別耐水圧まとめ
時速 40 km走行 6,000~8,000 mm
時速 60 km走行 11,000~13,000 mm
時速 80 km走行 18,000~20,000 mm
時速100 km走行 27,00~29,000 mm
■中程度の雨(水圧2000 mm程度)の中で必要な速度別耐水圧まとめ
時速40 km走行 10,000~12,000 mm
時速60 km走行 20,000~22,000 mm
時速80 km走行 34,000~36,000 mm
時速100 km走行 52,000~54,000 mm
ちなみに防水素材で最も有名な素材がゴアテックスですが、ゴアテックスの耐水圧性は45,000 mm程度です。
上の数値を見ると中程度の雨であったとしても、時速100 kmで走行する場合はゴアテックスですら水の侵入を許してしまうことになります。
雨の日はなるべく低速で走行したほうがいいですね。
注)これらの必要耐水圧の数値は管理人の過去着用したレインスーツの浸水の経験に基づいて算出されています。まず特定の速度での走行時の浸水の経験があり、それに合致するような計算式を作成しました。そのため計算式は正確ではありません。あくまで個人の経験に基づく目安となっていることをご理解ください。
ライディング時に雨水を侵入させないための対策
1.防水機能のあるウェアを2重に着る。
もっとも単純な対策で防水機能のあるウェアを2重に着てしまえば、水の侵入する可能性もぐっと低くなります。これは郵便局の配達員の方もよくされている方法のようです。ただし、かさばって動きにくくなるのと、透湿性の優れたウェアでないと蒸れがひどくなり結果的に汗でびしょ濡れになってしまいます。
2.1~2サイズ大きめのレインウェアを着る
ウェアの耐水圧は、膝や肘や肩など関節部の突っ張る場所において低下することを書きました。なので1、2サイズ大きめのウェアを着れば、関節部の突っ張りを極力なくすことができます。そうすれば耐水圧の低下を防ぐことができるので、水が侵入しにくくなります。
3.低速走行を心掛ける。
そしてこれがもっとも重要な項目。基本的に速度を上げれば上げるほど雨のぶつかる威力が増していくので、より強力な耐水圧が必要になってきます。なので速度を時速40~50 Km程度に抑えて走行することを心掛ければ、耐水圧20,000 mm程度あれば、水の侵入を防ぐことができるはずです。とくに急な雨で、耐水圧が10,000 mm程度しかないウェアを着ていた場合は、まだ長い時間走らなければならない場合は速度を落としましょう。雨の日は本当にスリップしやすいので、低速で走ることは危険回避にもつながります。
4.雨の日はバイクで走行しない。
まあこんなことを言ってしまっては元も子もないのですが(笑)しかしこれも一つの選択肢です。バイクは車と違ってエンジン廻りやメーター廻り、コード類など、色々な部分がむき出しですので、基本的には水に当たるのは良いことではありません。走行後はバイクに付いた水は可能な限りふき取らなければ錆などの原因になりますし、チェーンも雨天走行した場合は清掃しなければすぐに錆びてしまいます。バイクを大切に乗りたい方にとっては、雨天走行後は手間が非常にかかるので、車やバスや電車などが代用できるのでしたら素直にそうした方がよいでしょう。
まとめ
自分の持っているバイクウェアの耐水圧の数値がいくつなのかを確認して、その耐水圧に収まる範囲の速度で運転しましょう。そして可能な限り運転する時間を短くしましょう。水は徐々に浸みてくるので運転時間を短ければ、仮に耐水圧をオーバーしてしまったとしても被害を最小限に抑えることができます。
以上バイクウェアに必要な耐水圧でした。
次回は防水とは切っても切れない、透湿のお話をしたいと思います。
今回も最後まで見て頂きありがとうございました。
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